研究紹介

真に持続可能な農業とは何か?を科学する

はじめに

農業は環境負荷なのでしょうか?確かに、今の多くの農業生産システムは環境負荷が大きいでしょう。しかし、農業が環境保全し、生産性の持続性を向上させる新しい農業の姿があるのではないでしょうか?本研究室では、真に持続可能な農業の姿を求めて、カバークロップの利用、不耕起栽培、有機資源の堆肥化、有機農業について、土壌―作物―生態系の視点から総合的にアプローチしています。また、農業用ロボットやドローンなどの先進技術の導入により次世代型の有機農業技術開発を行っています。さらに、地域における農業の意義と深く理解するために家庭菜園や農業福祉に関する取り組みを実施しています。地域や環境がよくなる新しい農業の在り方について、一緒にフィールドで学びましょう!

テーマ1.

カバークロップと不耕起栽培で温暖化の緩和と土壌健全化の両立する農法の実証

茨城大学農学部国際フィールド農学センターは、カバークロップと耕うん方法による炭素貯留への影響のモニタリングサイトを設置し、農耕地の炭素貯留と作物生産性について長期観測しています。ここでは、耕うん方法(不耕起、プラウ耕、およびロータリ耕)およびカバークロップの種類(ヘアリーベッチ、ライムギおよび裸地)を組み合わせ、夏作に2003年から2008年までオカボを、2009年以降はダイズを栽培しています。この圃場において、土壌中の炭素の変化を測定し、農法の違いによる土壌中の炭素の増加・減少の定量的な評価と、農耕地から発生する温室効果ガスのモニタリングを行っています。長年のフィールド調査の結果から、不耕起栽培に加えてライムギなどのイネ科のカバークロップの利用の組み合わせが、地球温暖化係数をより削減する農法として重要であることを実証しています。


写真1 長期輪作試験圃場でのカバークロップ生育状況

テーマ2.

ロボット草刈機と共生微生物を活用した次世代型不耕起有機栽培技術

使用したロボット芝刈機は、自動で雑草管理できるよう、ガイドワイヤーと境界ワイヤーを不耕起草生区に埋設し、チャージステーションとソーラパネルを設置しました。ミニトマトの栽培には、露地夏秋どりでは新しい栽培法「ネット誘引無整枝栽培(ソバージュ栽培)」を導入しています。ロボット芝刈機の雑草抑制効果についてみると、草丈の高い雑草の繁茂を防ぎ、手除草はマルチの隙間から生えてしまう雑草管理のみでと労力を大幅に削減できました。消費電力については、ソーラーパネルの電力を活用し、十分に稼働可能であることを実証しています。


写真2 不耕起草生有機栽培でのロボット草刈機の利用

テーマ3.

「草を活かす」革新的有機稲作農法の解明と再現

有機農業の実施面積および有機農産物市場は世界的に拡大していますが、日本の有機農地面積(JAS有機認証)は約1万haに留まっており、主要課題として農業所得の安定的確保があります。有機農業の中には、経営面積7haの水田全てで有機稲作を実施し安定した経営を実現する革新的事例があります。その要因は、施肥も除草もしない極めて省力的な農法を確立していることです。冬春雑草など水田内の有機物の利用と水管理・栽培管理を絶妙に組み合わせて、水稲への養分供給と水田雑草の発生抑制を同時に実現するもので、「草を活かす」農法と呼ぶことができます。現在「草を活かす」農法の成立は現象的には確かめられていますが、そのメカニズム、成立条件や他の場所での再現性など多くは未解明です。本研究は、「草を活かす」農法の仕組みの解明を行い、気候および土壌条件が類似する大学農場でこの農法の再現を目指しています。


図 草取りをしない新しい有機水稲栽培での雑草管理

テーマ4.

農業分野における新しいドローンの活用に関する研究

現在、ドローンは農業分野において広く活用されています。本研究では、ドローンによる空撮画像から作物の生育・収量をモニタリングし、散布用ドローンを用いたドローンによる効率的な営農管理について研究しています。とくに、有機農業の場面で活用可能なドローン技術についての研究を進めています。


写真 ドローン

テーマ5

農福連携が障害者の心体に及ぼす効果の定量的解析

農福連携の取り組みは、農業の担い手の多様化による経済的効果と障害者にとっては心体の健康確保などの双方にメリットのあるものです。本研究では、大学農場内で病院や福祉施設と連携して農福連携を実践し、参加する作業者の心身に及ぼす影響の定量的検討を行っています。さらに、農福連携の経済性と障害者の心身への効果を統合解析し、地域農業としての持続性を確保しながら、農業のもつ福祉効果を発揮できる茨城型の農福連携モデルを示すことを目的としています。


園芸療法での野菜生産